2023年4月4日
島の道
島に春が来て、山桜が咲きソメイヨシノが咲き、美しく彩られた山を見上げながら、島を網の目のように繋いでいた細い道を思う。 まず、ソメイヨシノが満開の一番のお大師様の上を行く道。少し上がると天狗ん松が聳えている足元に何番目かのお大師様の祠、そこをすぎて森の中の落ち葉が厚く積もっ...
2023年3月7日
G翁の昔語・演芸会
二十六夜ちゅうのがあって、今の春の宮の祭りの日じゃがその日の夜、青年団が演芸会をせよった。ワシは、芝居が好きで、よう見に行きよった。あの頃、ワシは十七でのう、芝居を見た晩、戻ったら、みなビデオのように一言一句その通りが浮かんでくる。その通りをワシが脚本を書く。ほいから、実技...
2023年1月10日
回る回るよ時代は
一年で一番寒いこの季節。去年の今頃は何をしていただろうと考えた。まだ、コロナも対岸の火事のように、呑気に正月を迎えていた。まさか、この年が未曾有の厄災に巻き込まれるなどとは、夢にも思わず、今迄の時代をそのまま次の世代に手渡せると思っていた。...
2022年12月20日
ホットケーキ
今年も冬になり、気付けば今年も公園の松がずいぶん枯れよる。どうも公園の松はある程度大けえなると枯れてしまうようなね。幼木の頃は景気も良うて、ヨシヨシと見ちょるんじゃが、いつの間にやら次々に枯れていく。たしか今植わっちょる松は、松くい虫に強い種類じゃと聞いたんじゃがね。それで...
2022年12月6日
こわやこわや
今よりも遥かに闇が濃かった頃。 その闇から滲み出るように、島のあちこちに人ならぬ者の物語があった。 例えば、『まんころ』ちょっとかわいい名前の握り拳位の火の玉の仲間。夜遅く暗い道をトボトボ歩いていると、フッと向こうに灯りが着いたと思ったら、それがコロコロ転がりながら近づいて...
2022年11月22日
昔日の訪問
人間生きていれば思いもかけない出会いもある。ある日仕事場で自転車を借りて出かけた兄を待っていると言う人と話していたらその人が「私、子供の頃に ここに住んでいたんですよ」と言う。そこで島出身の人だと思い「どの辺りの、苗字はなんですか」と聞くと、島の出ではなくお父さんが校長先生...
2022年11月8日
ハマグリ掘りの話
子供の頃は、どこの浜でもハマグリ(※)がよう出た。大人も子供も丸篭を下げて、ハマグリ掘りに励んだもんじゃった。 黒髪島に住んでいた頃は、太刀ノ浦から仙島手前のヒトの浜まで歩いて行った。ヒトは砂浜じゃから子供でも簡単に掘れる。出る端から丸篭に放たり込うで、貯まっていくのが面白...
2022年10月25日
島のもん
先日職場の客から、島の者という言葉を聞いて、はたと思った事。 ディスったかも知れんけど、それ位じゃあ島のもんにゃあ 応えりゃあせんよ。昔から島のもんを一段下に見て、町に住んで居るだけで偉そうにする人は飽きる位見てきたからね。島のもんはそこをヤレヤレと優しく見過ごしてきた。...
2022年10月11日
踊る阿呆に…
「踊りょう踊るならあ お寺のかど※1でー、」から始まるわが盆踊り。 初盆の人の遺影の前で、浴衣姿に団扇を持って、太鼓に合わせて手踊りをする。太鼓と口説きの調子が合うと、踊り易く「ヨイヨイヨイ、エーイエーイヨウイヤナ」の合いの手も熱をおび、踊り場は一気に盛り上がる。...
2022年9月27日
薄明るい夕暮れの空をねぐらへ帰るカラスの群れ
さっきまで夕陽に輝いていた海は暗くなり、漁船が一艘淡く白い航跡を残し港を出てゆく。足元で小さな波が、タプタプと唄う。 暑かった今日の終わり。島の家々に次々、明かりが灯る。その一つひとつが辛い一日の労働から解き放された安堵と誇りだ。父や母の帰りを待ちわびた子供達の辛抱の華だ。...
2022年9月13日
母から子へ ?
昔はよう、饅頭を炊いたよねと、このところ話す。島で言う饅頭は握り拳大のさんきらいの葉をしいて蒸した物で、食べるとほのかに炭酸の香りがして、年を取った今、それが母の顔や七日日の海を思い出させる。 昔、海の側に墓があった時代は、七日日には泳いで海から上がって、墓に手を合わせま...
2022年8月30日
Aちゃんの九死に一生物語
(Aちゃん、二十歳の頃を思い出しながら語る) うちはその頃は石船をせちょった。石船ちゅうのは、分かるかいね。石を運ぶ船で、両舷には棚もなんにもない船で、積荷の石の上に、大石ちゅう船のバランスを崩すための石が積んである。荷を崩す時は、その大石を片側へウェンチンで吊って船を傾け...
2022年8月16日
昔を残そうやぁ
昔はあれいね から始まる懐かしい話。すっかり忘れていた話や時には初めて聞く話など。馬島公民館の活動として、昔の生活を残すべく、聞き書きを始めてもう4、5年。支所に居られたR氏の薦めで始めた活動だった。その後支所に来られたK氏も応援して下さり。それを励みにどうにか続けている。...
2022年8月2日
雑草レクイエム
はるか昔、この島に人が初めて上陸した時、ここは見渡す限りの葛の原じゃったという。そこで島の人達は、葛原親王という桓武天皇の第三皇子を御祭神として祀ったのが、葛原神社の始まりと伝わっているね。 時は移り今に至るが、すっかり人口の減った島の景色は、彼(か)の頃に戻ったように葛が...
2022年7月19日
流れ寄るもの
名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実ひとつ。 家の前の海を眺めながらふと思い出した歌。馬島の東の方の水場と呼ぶ海岸は、外海に面しているからか、椰子の実も時折流れ寄っていた。これを持ち帰ったら、芽が出て大きな椰子の木にならんかしらんと思ったものだ。...
2022年7月5日
夏の子ども
芋や稲の草取りに背を焦がす大人を横目に、子供達は長い休みを謳歌する。「家の事もあるんけん、二時間でよ」と泳ぎの許しを待ちかねて、脱兎のごとく飛び出してゆく。そんな時代の子供の話。 折しも巨大タンカーが隆盛だった時代。出光のタンクの沖に入港したタンカーを見た少年三人、伝馬船に...
2022年5月3日
芋の話
島で芋といえばサツマイモ。どこの家でも「うちの芋が一番美味い」ちゅう芋畑がありよったちゃあね。 戦後の子の私たちが芋と聞くと、一瞬切ない思いをする人もあると思う。何しろ芋にはああちょった(飽きていた)けんね。芋のある間はおやつはもちろん三度の飯の一度は芋ちゅうことも珍しゅう...
2022年4月19日
うじゃける話
つい最近の話。息子が「わしは額にかいいもんが出来て、かゆうてやれんのよ」と言うから、「どれどれ」と見てみるともうブツブツは無くなって、赤みが出て「うじゃけ」ちょった。私が「これはもう、うじゃけちょらあね」と言ったら、息子「うじゃけるちゃあ何か。初めて聞く言葉じゃが」と言う。...
2022年4月5日
春と桜と母
今年の冬はどうも暖冬のようなね。 公園や校庭には野生の菜の花が咲き揃っているし、山ではフキノトウが早くも収穫後だったし、ミモザももうすぐ満開になる。じきにサクランボの花が咲くじゃろうね。続いて山桜や乙女桜が、そしてソメイヨシノが綺麗に咲くじゃろう。...
2022年3月22日
カアチャンらぁのヨイトマケ
今でこそ馬島から本浦近江までも、車でサアーと行けるけど、昔は細折(ほそおり)から登り、昼間でも暗い山道を一時間余りも歩いて行くしかなかった。その道の途中には、死んだ赤子の声がせるちゅう赤子岩やら、首吊りの話が有ったりせて、何かに追われるような心地で歩いたもんじゃった。...