ええくんばい


ひどく寒い日に暖かい風呂に浸かって、「ああ、ええくんばい」

または、暑い暑い日に海に海に飛び込んで、「ええくんばいでよう」

ええ具合とええ案配が、一緒になって生まれた言葉じゃろうか。

とにかく心地良い時や、物事がうまくいった時などに、島では、「ええくんばい」を使う。

昔、バアサマ達が磯に行って、思いがけなくたくさんの獲物があった時とか、小日和で畑仕事の心配もなく、仲間とお話し講をする時「ええくんばい」を使いよったね。

時代はまだまだ厳しくて食べるものさえ「腹太(はらふ)っとら」※1食べたことはない。学校にだって、藁草履で行ったり、雨降りには、「どんだ」という、綿入れの、使いに使って、ツギハギだらけの元の模様じゃぁなんじゃぁ判らんようになったのを、頭から被って通った。弁当も、持って来れん子もいたし、持って行っても、麦ばかりのご飯や、浸け菜だけの中身を見られるのが嫌で、隠して食べたり。竹輪なんかがあったら、大ご馳走。

子供心にも、情けない思いをいっぱいしたが、子供というものはそんな中でもたくましく毎日を送っていた。大人達の世界はそんな中、現金収入もなく、子供たちを学校にやるだけでも、大変な事だった。その上、畑も家事も全部手仕事。

そんな暮らしに、ささやかな楽しみのどれだけ貴重な事か。難しい事も、情けなあ事も、いっとき忘れさせる「ええくんばい」を楽しむ。いやいや厳しい日常だからこそ、「ええくんばい」が有り難い。この頃は何もかも便利になって、辛い労働もなくなり、小日和をする人も少なくなった。朝から晩まで、がしりああて※2、ゆうに座っちょる事じゃあなんじゃあ、年に何回もなかったから、くたびれた身体で、風呂に入って温まり、ぬくぬくと布団に入り、まどろむときの、「ええくんばい」

金にもご馳走にも変えられん心底の「ええくんばい」

便利になりすぎて、却って気付き辛い「ええくんばい」じゃが、この世にある事だけでも「ええくんばい」と思う今日この頃じゃったりするので、皆さまにたくさんの「ええくんばい」がありますように。

(H29.7)

※1腹太っとら…おなかいっぱい

※がしりああて…爪に火を灯して頑張る様