薄明るい夕暮れの空をねぐらへ帰るカラスの群れ



さっきまで夕陽に輝いていた海は暗くなり、漁船が一艘淡く白い航跡を残し港を出てゆく。足元で小さな波が、タプタプと唄う。

暑かった今日の終わり。島の家々に次々、明かりが灯る。その一つひとつが辛い一日の労働から解き放された安堵と誇りだ。父や母の帰りを待ちわびた子供達の辛抱の華だ。一つの明かりにひとつずつの物語。だからだろうか、島の家々の明かりは美しかった。沖の波止から見ると暗い山のシルエットにキラキラ重なり合う明かりは命の輝きのようで、大好きだったひと昔。

今、波止から眺める島は暗い。家々の明かりは、あの美しかった明かりはもう数える程しかない。空き家が増えて明かりの付かない家が増え、じげ(集落)のあちこちに闇が居座る。

あの闇は酒が好きで時々酔っ払っていたバア様の家あたり、こっちの闇は子供をかしらうのが好きで、よく男の子達と追っかけっこをしていたジイ様の家があったところ、昔住んでいた井戸から遠い家はあの辺りか。水汲みは面倒くさくてイヤだったなぁ。でも、井戸水で冷やした胡瓜やトマト、美味しかったこと。

などと無いものねだりの懐かしさに浸っていたら、上の畑から、ブヒッと言う鼻息が響く島。ニンゲン様が元気がなくなったら、猪めが調子こいて昼間でも海辺の道を闊歩する。

その上、ここに来てコロナという目に見えん敵が現れた。

高齢化過疎猪コロナ!いっそのこと島のキャッチコピーにでもしてみたらどうじゃろうか。島は負けりゃあせんよ。昔から二十六夜ちゅう、疫病を退散させる祭りも有る。先人はそうやって戦ってきたんだもの。

その末裔の私達にもその血が流れている。きっと耐えて戦いに勝利すると思ういね。

今現在は耐えるしか無い時期じゃけど、ここを乗り越えたら、新しい時代になって、今が昔話になることじゃろうよ。


(R2.9)