隣に住む一家のあんちゃんがふく縄から戻り、土産にととらふくをまるごと1匹くれて「よう造るんじゃろうがの」と言うのに対して、我が母曰く「なんちゅうてよう造ろう。造ってくれえでまえ」。隣のあんちゃん答えて曰く「なんなのう。土産をやっちょいて、造ってまでやらんにゃあならんとは」と言いつつ、自分の家のものより先に手際よくさばいて、刺身と鍋にすれば良いように造ってくれて、「ほら、あとはめんめがやりまえよ」と届けてくれる。もちろんその夜は、美味しいふくの刺身とふくの味噌汁に、一家揃って舌鼓を打ったのだった。
「なんなのう」
くたびれ儲けやがっかりした時、思い通りに事が運ばなかった時、思わず口をついて出る島の言葉。最近ではせっかくイモを植えてもイノシシめにみな食われて
「なんなのう、これじゃあせえがなあ」
という会話をあちらこちらで聞くね。
じゃがこの「なんなのう」はまだ絶望まではしていない。まだ後を踏ん張る思いを含んだがっかりを表す「なんなのう」。
隣のあんちゃんもやれやれではあれど、まあいいかと許しのある「なんなのう」
取っても取ってもすぐ生えてくる草を眺めながら、「なんなのう」と言いつつ明日からもまた頑張るしかないかと、自分を奮い立たす。
日々の暮らしの中で、思い通りにならないことにくさらず、ちいさく諦めながらわが身を追い詰めないで、地道に生きる島の知恵「なんなのう」。
島の人口もめっきり減り、聞いておけば良かったと思うことがずいぶんあったのだと気づくこのごろ、たくさんの別れに「なんなのう」の島でもある。
(H28.11)
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