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ホットケーキ



 今年も冬になり、気付けば今年も公園の松がずいぶん枯れよる。どうも公園の松はある程度大けえなると枯れてしまうようなね。幼木の頃は景気も良うて、ヨシヨシと見ちょるんじゃが、いつの間にやら次々に枯れていく。たしか今植わっちょる松は、松くい虫に強い種類じゃと聞いたんじゃがね。それでも次々に枯れる。この前の大風の後には、公園中がすくどの絨毯のようになっちょった。それを見ながら子供の頃、こねえにきれいなすくどがあったら嬉しかったろうにと、すくどこりが子供の仕事じゃった頃を思うた。妹と弟を連れてすくどこりに行くのに、ホットケーキを作ってやろうと思うて小麦粉に卵砂糖を混ぜて、たっぷりの油で焼いた。ベーキングパウダーなるものの存在も知らず、母は炭酸を代わりに使うてふっくらしたホットケーキを作っていた時代。炭酸も入れず作るもんじゃから油ベチョベチョの甘くて卵臭い、ねっちょりしたの何やら分からんものがその日の弁当じゃった。それでも妹も弟も「うまあよ」と言って食べてくれた。じゃから今度こそはと砂糖を増やしたり、また卵を増やしてみたりせたが、ますますベチョベチョになったり、卵臭かったりして、ようやく母に事の次第を話して助けを乞うと「そりゃああんた、炭酸ないと入れえで膨らむかいね」と笑われた。そこで次に作る時には恐る恐る少量の炭酸を加えてみたなるほど、ちーとほど膨れてベチョベチョじゃあなあようになったが、母のそれには程遠い。そこで炭酸が足らんかったなと、見合わせ丸の持ち合わせの無い私は思い切って炭酸を加えて焼いた。ふっくらとそれは美味しそうに出来上がり、思い切りかぶりつくと、苦い。炭酸を入れ過ぎた訳で、妹にも弟にも大不評。火加減も竈(かまど)だから、時には焼け焦げ、時には生焼け。甘い物の少ない時代、そんなものでも妹も弟も文句も言わず食べてくれよったね。

 その後、ホットケーキミックスじゃあ言う便利な物が出来てきて、正体不明の物を食べずに済むようになった。おかげで我が家の子供達は、お袋の味ならぬ、袋の味で育ちましたとさ。

 この頃ではパンケーキとやら言うて、クリームや果物を飾ったバえる

食べ物になっちょるようなね。じゃが私にとってホットケーキはまずあのベチョベチョが頭に浮かぶ。まさか妹も弟もそうでありませんように。


(R2.3)




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