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春と桜と母




今年の冬はどうも暖冬のようなね。

公園や校庭には野生の菜の花が咲き揃っているし、山ではフキノトウが早くも収穫後だったし、ミモザももうすぐ満開になる。じきにサクランボの花が咲くじゃろうね。続いて山桜や乙女桜が、そしてソメイヨシノが綺麗に咲くじゃろう。

足元には、スミレ、タンポポ、土筆(つくし)。そうなると、ワラビ、ゼンマイ、ツワ、タラノメ、まつ菜を探る人で山も賑やかになる。

顔をあげて見渡せば、ワカメ、ニナ、牡蠣、コブノリを採る人が干潮を待ちかねて磯へ繰り出す。

私も小さかった子供達を連れ、母と共に山にも海にもよう行った。

いまでは山も荒れ、磯物も少なくなったが、島のそこかしこに母や子供達の思い出が重なる。小まめな母は節句だけでなく子供達のために自然の物をふんだんに使った彩り豊かな弁当を作っては、山や磯に行った。

大人になった子供達は、ようやく小まめな母の味の値打ちが分かるようになり、その味を懐かしむ。小さい頃は遊ぶばかりでたいして美味しいとも言わなかったけど、大人になった今、「こんな物をおいしいと食べる時が来るとは」と言いながら煮しめや酢の物を食べるようになった。小まめな母の味が、記憶に深く刻まれていて、成長した時に蘇って大人の味を決めることになっちょるんじゃから、小さいころの食べ物は大事じゃと思うね。

食道癌を患い、最後の年の桜祭りに、痩せた姿を憚(はばか)るように、校舎の裏のまだ小さい桜の木の下で弁当を食べようと決めた母。みんなで食べた弁当は、小まめな母の味を倣(なら)いながら私が作ったもの。まだまだ追いつけはしなかったけれど、みんなで小さな桜の下での笑顔のお花見。

あの桜の木も今ではすっかり大きくなり、毎年美しい花を咲かす。

あれから15年近くも経ち、子供達も成長し島には居ないけれど、あの桜を見る度に母の笑顔と自身の子育てを思い出すんよね。

今年の桜祭りは3月31日。

雨など降らず、楽しい一日になりますように。


(H31.3)


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