

島の芋
瀬戸内の島は段々畑が頂上まで続き、保水性の乏しい山だった為、夏場はどこも水不足に泣いたものだった。風呂に入るのも遠慮するような日々の暮らしだったが、この水不足の渇いた大地は、サツマイモを甘く濃い味に育てた。 収穫すると、船に積んで本土まで売りに歩いた。みんな「あんたのところの芋でなけりゃあ、美味うない。また、来年も頼みます」と言われたものだと、隣のおばさんが懐かしそうに話していたものだ。 高齢化に猪が追い討ちをかけ、今では島でサツマイモを作っている人はごく少なくなってしまった。島と言えば芋、芋と言えば島と言われた美味しい芋の味も今は無い。ある人が「スーパーで見かけて、余りにも美味しそうで、思わず買ってしまったけど、これが芋臭くて美味しくなかった」と、嘆いていた。大体、売り物の芋は、きれいに洗って売ってある。昔から芋は洗ったらすぐ食べんとダメだと言っていた。それを知らないうちの娘も、きれいに洗ってある芋を買ってきて、「なんでこんなに芋の悪い匂いがするん」と言いながら、不味い(まずい)芋を半分私にくれたりする。 昔の芋には飽きて、また芋かと悪態をつい
2025年11月1日


蠢くもの
私が10歳あまりの頃の話です。 たんぽ、ちゅうて分かるかいね。島では水路の事をそう呼びよったね。馬島地区には特に多くて、何本ものたんぽが集落の上から海まで続いちょった。日頃は少しの水が流れるばかりのたんぽじゃったか、高潮や台風の時には逆流して、大分上の方までタプンタプンと塩水が 来よった。 ある夏の夕方、一人の女の人が用があって知り合いの家に行こうと、たんぽの横の道を歩きよった。「今日は大潮じゃから、潮が高いのう。ここまで水がきちよる」と思いながら道を登りよったら、階段になってたんぽが切れる所に、何やら見慣れぬものがある。それは真っ黒でヌラヌラ水気が多いようなものが、たんぽの壁に引っ付いちょるように見える。動くとも見えんから、「誰かゴミを捨てたに違いなあ」と思うて近づいていくと、ぬるーんとそのものが動いて、階段の横のたんぽが縦になっちょる所を登ろうかというように手のようなのを上側にペターッと動かした。手のような、ちゅうが、ただ真っ黒、爪も無けりゃあ、関節も無あような。たまげて足もなんにも動かんようになった女の人が尚も見ちょると、坊主のような真っ黒
2025年10月15日


島の切れ端
暑くなってくると私の悩みの種、ムカデ、フナムシ。断りも無しに我が家に忍び込み、寝ている私の上を這い回り、時には噛みつき激痛に眠れぬ夜を送る事になる。色々な薬も試すがイマイチ効き目がなく、毎年熟睡出来ない夏を送る。まあ、きっと隙間だらけの我が家の造りに問題があるんですよ。なので一時期ネズミが走り回っていたが、この頃は見なくなって一安心。その代わり、暖かくなって出て来て困るのは蛇。今年は多いのかも知れんけど、もう三匹も見た。年によると一匹も見ない年もあったから、このペースは早い気がする。昔は沢山居たよね。畑に行く途中、一匹は必ず見ていたもの。 農具小屋に入ったら、物凄い大きな青大将がいて、襲われるんじゃないかと怖かった。小屋の天井からは、脱皮した目玉や尻尾の跡も完全に残ったのがぶら下がっていたりした。余りにも大きいので、「財布に入れたらこれだけでいっぱいになって、お金が入れられん」と親達が笑っていたっけ。猪が食べるのか、蛇が少ないねと話していたけど、今年は、目撃が多いような気がするね。 蛇が好きな訳じゃ無いけど、やはりいるべきものがそこにいるのは安心
2025年10月1日


島の道
島に春が来て、山桜が咲きソメイヨシノが咲き、美しく彩られた山を見上げながら、島を網の目のように繋いでいた細い道を思う。 まず、ソメイヨシノが満開の一番のお大師様の上を行く道。少し上がると天狗ん松が聳えている足元に何番目かのお大師様の祠、そこをすぎて森の中の落ち葉が厚く積もっ...
2023年4月4日


G翁の昔語・演芸会
二十六夜ちゅうのがあって、今の春の宮の祭りの日じゃがその日の夜、青年団が演芸会をせよった。ワシは、芝居が好きで、よう見に行きよった。あの頃、ワシは十七でのう、芝居を見た晩、戻ったら、みなビデオのように一言一句その通りが浮かんでくる。その通りをワシが脚本を書く。ほいから、実技...
2023年3月7日


回る回るよ時代は
一年で一番寒いこの季節。去年の今頃は何をしていただろうと考えた。まだ、コロナも対岸の火事のように、呑気に正月を迎えていた。まさか、この年が未曾有の厄災に巻き込まれるなどとは、夢にも思わず、今迄の時代をそのまま次の世代に手渡せると思っていた。...
2023年1月10日
